長い歴史を持つ老舗旅館だけあって、玄関は堂々たる風格の茅葺き入母屋造りで、気後れしそう。それもそのはず、今回は外来入浴1680円のところを雑誌『自遊人』付録の温泉パスポートを利用して(しかも夫婦そろって)ただで入れてもらおうというのです。 |
さすがは老舗旅館。入り口には年配の番頭さんたちが待機しています。昨今、作務衣姿で身の軽い出迎えが多いだけに、懐かしくも重厚な空気が漂います。 |
「これで立ち寄り湯したいのですが」とおずおず温泉パスポートを差し出すと、「どうぞご利用ください」と快く手続きしてくれました。「昼食はこちらの食堂を利用して、お土産も買いますからね」と心の中で言い訳めいたことを言いながら浴場に向かいました。 |
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四万たむらと聞いてまず思い浮かべるのがこの露天風呂ではないでしょうか。宿の玄関から一番奥にある浴場で、我々夫婦も真っ先にここへ向かいました。 |
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鍵形をした細長い湯舟に木造屋根がかかった半露天風呂。
正面には弁天の滝、透明な湯には「たむらの森」の緑が映り込み、老舗旅館らしい重厚さとすがすがしさが絶妙にブレンドした素晴らしい露天風呂です。
写真は男性用。女性用の浴場はこの上にあります。
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「森のこだま」の手前にあるのが「甍の湯」。1、2階が半分吹き抜けになっていて、太い柱の上が女性用浴場になっています。 |
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毎分1600〜1800リットルという圧倒的な湯量の自家源泉を持つだけあって、丸太で仕切られた大きな湯舟に、四万ならではの肌を包み込むような柔らかい湯がかけ流されています。 |
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四万川の支流、新湯川の川原に作られた露天風呂。
川の水かさが増すと川の中に隠れてしまうことから「幻の湯」と名づけられたそうです。
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たむらには他にも檜造りの「御夢想の湯」など個性的な浴場がたくさんあり、すべてがかけ流し。心行くまで風呂のはしごを楽しむことができます。 |
冒頭、この旅館の風格ある構えに「気後れしそう」と書きましたが、それにはもうひとつ訳がありました。 |
大正期の歌人、若山牧水が『みなかみ紀行』で、粗末な部屋に通された上に夕餉の膳に2品ほど追加注文したところ、その場で代金を請求されたことなどを挙げて「いかにも不快な印象を其処の温泉宿から受けた」と記しているのが田村旅館(今の四万たむら)でした。 |
そのことを読み知っていたことが堂々たる宿構えと相乗して、前々から敷居が高く感じていたのです。 |
今回、「温泉パスポート」を快く利用させてくれた四万たむらには(老舗のプライドこそ感じましたが)そんな傲慢さは全くなく、大正時代の田村旅館とは別ものと感じました。さらにこのレポートを書くにあたって手持ちの本を何冊か読み直したところ、読み飛ばしていた記事を発見。『週刊日本の温泉』No.11の野口冬人さんのコラムにこんなことが書いてありました。(以下一部抜粋) |
「もともとは四万温泉は自炊、半自炊、仕出しなどの盛んだった湯治場で、長期滞在の多い所であった。 (中略) 当時は仕出しの料理を注文し、配達された時に代金を払うのは当然とされていたが、牧水はそれを知らずに、自分のみすぼらしい旅姿から即代金を請求されたように誤解し、(後略)」 |
旅先で不快な思いをした牧水にとっても、「牧水の愛した宿」という宣伝文句を未来永劫使えなくなったたむらにとっても不幸な誤解であったといえます。 |
ともあれ、四万たむらはまさに温泉三昧の宿。ただで入って言うのも何ですが、これだけたくさんの素晴らしい風呂をはしごできるのですから1680円という入浴料は決して法外な値段ではないように思えました。この料金設定のおかげで日帰り入浴客はそう多くなく、ゆったりと入れるのも魅力です。 |
入浴後、宿のレストランで蕎麦を食べ、お土産にたむら特製の花豆の甘納豆を買って、宿を後にしました。 |
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2007年8月17日 |
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